コピーではコピーの勉強しかできない
(2024年11月 日本大学経済学部図書館広報に寄稿)
ある先生が「コピーではコピーの勉強しかできない」と仰いました。大学図書館蔵書数国内第5位の大学(私立大学では第3位)での学部2年のとき,書誌学の先生が担当なさっていた,原典講読という基礎的な文献を正確に読み解けるようになるための授業でのことです。
書物のコピーは持ち歩いたり書き込んだりしやすいけれど,コピーをとった部分の前後まで深く読むことができないこと。章立てや構成といった内容,装丁,紙,活字の組み方といった見た目,それぞれ細部に至るまで念入りに作られている書物の息遣いや佇まいを感じ取ることができないこと。コピーでは読み方自体が雑になること。このような理由を示していただいた覚えがあります。
その先生は,図書館で実物を見て触れることの大切さも説かれました。書架に入って並んだ書物の背表紙を眺め手にとってぱらぱらとページをめくるブラウジングをすることが,興味を広げ新たな発想をもたらすからです。図書館に長い間収められ多くの人々が手にした書物は,開き方のくせやページの焼け具合でどの部分が注目されてきたのかも分かります。
このような教えを若くして受けた私は,書誌学でも文学でもなく教育心理学を専門としながらも,書物はできるだけ実物を読むように,折に触れて図書館の書架を眺めるようにしてきました。大学院生だった頃には「コピーではコピーの勉強しかできない」と言いながら,身分不相応なくらい書物を買っていました。実物の書物を使ってそれなりに勉強してきたことが,そして暇さえあれば図書館でブラウジングをしてきたことが,研究者としての自分を形作ったように思います。
この4月に縁あって,大学図書館蔵書数国内第4位(私立大学では第2位)の日大に着任しました。ブラウジングをすること,書物の実物を手にすることが心ゆくまでできるのは,膨大な蔵書のある大学の図書館ならではの醍醐味です。
学生のみなさんには「コピーではできない勉強」を,国内屈指の蔵書を持つ日大の図書館で体験してほしいと思います。
※ 大学図書館蔵書数の順位の出典は次の通りです。朝日新聞出版 (2023). 大学ランキング 2023年版 朝日新聞出版
(山森光陽・発達と学習)

