板書集中演習
集中演習の流れ
- 事前に解説の部分を読み,演習当日に実際にできるようにすること。
- 演習の際には解説で取り上げた内容のうち,特に重要な部分を解説する。
- 当日は演習の部分を中心に扱う。
1 解説
1.1 板書の機能
1.1.1 黒板の歴史(福岡教育大学板書教育プロジェクト (2008)1より)
黒板は,学制発布以来150年以上にわたって用いられ続けている教具である。
- 1794: フランス École Polytechnique が開校し黒板がはじめて用いられる
- 1872: 大学南校で米国人教師スコットが近代的教授法の授業で黒板を用いる
- その後の歴史は全国黒板工業連盟の webpage を参照
1.1.2 板書の機能
板書は以下4つの機能を全て満たさねばらないと考えられる。
- 情報を提示する
- 情報を共有する
- 注意を向けさせる
- 共同思考を支援する
思考支援の道具としての板書
- 穴埋めプリントの再現ではないし,教科書の再現でもない。
- Figure 1 のように,1時間で行った教室での集団思考を過程を,学習者が黒板と自分とを往還させてたどり,最終的には1時間での集団思考の過程と結果が分かるようにする。
1.2 板書に関する研究知見
1.2.1 板書文字の大きさ(清水・安, 1976)3
- 板書に関する基本的な文献である。
- 図2, 3から分かるように,一般的な教室の大きさ(\(8m \times 8m = 64m^2\) だが多くは幅7m,奥行は9m程度)の場合,最後列の児童生徒が視力0.6(眼科受診基準は0.7未満)であっても識別可能な文字の大きさは5cm程度である。
1.2.2 板書の色と読速度4
- 図4に示されているように,白,黄と比べて赤は著しく読速度が下がることから,赤は識別しにくいことが示唆される。
1.2.3 黒板の高さ5
- 人の視野角の特性で下方よりも上方が狭いことや,視線の動きは眼球運動と体の動きを含めた頭部運動との合成により実現すると考えられていることから,上下移動可能な黒板は一般的な高さよりも少々上にしたほうがよさそうであることを示唆。
1.2.4 文字の大きさと色の目安
- 以下は2010年に慶應義塾大学の教育方法論の講義の一環として当研究室が行った簡易的な実験の結果である。なお参加者に色覚に異常があると申告した者はいなかった。
| 視力 | 白 | 黄 | 赤 | 青 |
|---|---|---|---|---|
| 2.0 | 見える | 見える | 見える | 奥まって見える |
| 1.0 | 見える | 見える | 見える | 黒板に同化してしまう |
| 0.8 | 見える | 見える | 青よりは見やすい | 薄い |
| 0.7 | 見える | 見える | 見えにくい | 見えにくい |
| 0.3 | 見えない | 見えない | 見えない | 見えない |
| 視力 | 15cm | 10cm | 7cm | 5cm | 3cm |
|---|---|---|---|---|---|
| 2.0 | 見える | 見える | 見える | 見える | 見える |
| 1.0 | 見える | 見える | 見える | 見える | 見える |
| 0.8 | 見える | 見える | 見える | 見える | 見えにくい |
| 0.7 | 見える | 見える | 見える | 見える | 見えにくい |
| 0.3 | 見える | 見えない | 見えない | 見えない | 見えない |
研究知見から推奨される文字の大きさと色
- 文字の大きさは5cm程度にする。
- 文字色は基本的には白または黄を使い,赤や青などでは文字を書かない。
1.3 板書の技術
1.3.1 前提
- 黒板はメモではない。
- 白い黒板に白い文字を書くと識別できない。
- 黒板に余計な張り物があると板書に注意が向かない。
- 板書計画を事前に立てておく。
- 事前に用意した張り物だけで板書を完成させるという技術もある。
1.3.2 チョークの使い方
1.3.2.1 持ち方
- 鉛筆のようには持たない(折れることも多い)。
- 親指,人差し指,中指でつまむように持つ(折れにくい)。
- 手首ではなく腕を使って書く。
1.3.2.2 姿勢と書き方
- 手首を黒板につけない。
- 腕と黒板の間に空間を作る。
- 身体と黒板をやや離す。
- 手首ではなく腕を動かして書く。
- 視線は水平か上とし,視線の下で書かない(字が曲がる)。
- 身体は黒板と垂直の位置からやや黒板寄りに傾いたところ(児童生徒に背を向けない)。
- 四分六(黒板4,生徒6)の構え,と言われているらしい。
1.3.2.3 色チョークの使い分け
- 色チョークは規則性を持たせて使い,3色くらいにとどめる(児童生徒の筆記用具の色の数を上回らない)。
- 文字は白または黄色で書き(白が主である),これら以外の色で文字は書かない(認識できない児童生徒が5%いると思ってよい)。
- 色チョークを使うときには「○色で書(描)きます」と言葉を添える。
チョークを用いて書く
- 紙と鉛筆を使う感覚だと,たいていうまくいかない。
1.3.3 黒板消しの使い方
- 上から下へ一方通行で消す(チョークを粉にして下に落とす要領)。
- 上下や左右で往復させると,チョークが黒板に残り,黒板が白っぽくなる。
- その後の板書の視認性が低下する。
- 上下や左右で往復させると,チョークの粉が舞い衛生的ではない。
- 全面が白くなったら黒板消しクリーナーでチョークの粉を落とす。
- 黒板消しは角を使う。汚れたら少し回転させ,きれいな部分を使う。
- 全面を使って消すと黒板が白くなる。
黒板消し
- 授業中に黒板消しを使うことはないと理解してよい。
1.4 板書の実際
1.4.1 板書計画
1.4.1.1 黒板の大きさ
- 一般的な黒板の大きさはH1200,W3600である(JIS規格4号)。
- 特に教育実習の場合には(よいとは言いがたいが連絡などの張り物のあることが多いため)W3000程度で計画するのが無難。
1.4.1.2 板書の流れ
- 課題・見通し(導入),問題解決過程(展開),まとめ(振り返りや次時に接続する内容を含む)の3分割で構成する。
- 児童生徒の思考の流れの主要な部分が載るようにする。
- 人は手がかりがあれば想起でき,手元に教科書などもあるので,詳細な板書は不要である。
- 余計な情報は認知負荷(外在的負荷)を高めるため,選び抜いた言葉や情報を載せる。
- きれいな3分割にこだわる必要はない。
板書計画
- 児童生徒の思考の流れを想定して計画する。
- 実際の板書に反映できるような縮尺で計画するとよい。
2 演習
2.1 再現する板書
課題1
- この板書の左半分を5分で再現しなさい。
- 時間が短すぎてもいけない。5分経過後は途中でも止めること。
2.2 重要な事項
- 1分間で30文字は目安と言われている。
- 次の課題では180字(6分)と描画の時間(4分程度)を想定。
- 授業の前半1/3までは幅をあまり取らないようにする。
- 後半の重要なことが書き切れなくなる。
- 黒板全体を見渡してだいたいの割り付けをする。
- チョークで点を打ってもよい。
- 地図をきれいに書けるのが社会科教師の腕の見せ所である。
- あまり詳しくなくてもよい。生徒がノートに再現できる程度。
- 破線を描けるようになると表現の幅が広がる。
- 色チョークの利用を減じることができる。
課題2
- この板書の中央の図を5分で再現しなさい。
課題3
- この板書を12分で再現しなさい。